株式会社セルファイバ:https://cellfiber.jp/
代表取締役社長 柳沢 佑
事業内容:細胞を含む生体材料およびソフトマテリアルを用いた研究、開発、生産、販売
株式会社セルファイバは、独自の培養技術をもちいて高効率な細胞量産プロセスを開発する企業です。株式会社セルファイバの代表取締役社長 柳沢様にお話を聞きました。
大学院生のとき、授業で東京大学のライセンス収入は米国の有力大学と比較するとはるかに少ないという話を聞き、なぜそうなっているのか、興味を持ちました。ですが、ビジネス経験が乏しい研究者が事業をおこせるのか、という疑問を持っていました。そう考えている時期に「スタートアップはビジネスモデルの仮説検証である」ということを書いているスタートアップに関する本(All In Startup: Launching a New Idea When Everything Is on the Line)を読みました。仮説検証であれば、自分の研究者としての経験を活かせるのではと勇気をもらいました。
研究にしても、この事業にしても、明確な答えがありません。まず仮説を立て、それを素早く試してみると、思ってもみないようなことを明らかにできることがあります。大学で生まれた技術を事業化する場合、その仮説検証を精度よくやるのが大事です。技術の良さと限界を理解しながら事業化を一歩ずつ進める仕事を突き詰めると必然として、「自分にしかできない」ことになります。
アカデミアの世界で勝ち進むことは、研究者にとっては非常に名誉なことかと思います。ですが、その価値観の中にいるので、そこで良い論文を出すといったことだけが成功指標になるような側面があり、せっかく専門性が高くても、自分の価値や評価が上がりにくい傾向があります。
産業界のほうが面白いと思う点は、純粋に好奇心ベースで身につけてきた専門性が、他の専門性と掛け合わさると、異なる次元の価値をもつところです。それは製品開発に限りません。例えば、広報の仕事であれば、専門性があるおかげで切れ味がよく、かつわかりやすいPRや記事を書けるとか、営業なら顧客に対して深い技術レベルの話ができるとか、いる場所で全然違う価値を発揮できます。
研究者の知的貢献で得られた対価をしっかり研究者に還元していく規定を初期の頃から考えて整備をしました。現時点では還元は決して多くないのが実情ですが、今後事業がグロースしていくことができれば株式だけでなく還元していけると考えています。研究者は常に新しい技術を開発し続けていきますので、そこの火を灯さないように仕組み設計しています。もう一つは会社で論文を発表できることだと思います。
アカデミアにいると、良くも悪くも同じような専門知識を持っている人たちの集まりなので、問題解決の方法も似たり寄ったりになりがちで、目新しい発見をしづらいかもしれません。一方、私たちの環境は、さまざまな専門性を持つ人が、かつ、産業技術として落とし込むことを経験したうえで取り組んでいるので、枠にとらわれない自由な発想が次々と生まれています。例えば、弊社で大量に一定品質のゲルのひもを作るとき、微細加工的な工夫もあれば、ソフトウェアの制御でなんとかする、といった様々な解決策が必要になります。多様な専門性の人が集まっていることで、新しい問題解決策を日々発見しています。単純に新しいものを見つけてくるだけではないクリエイティブさを日々感じられるのは魅力ですね。
知らないが故にイメージが湧かず、動けないということはあると思います。そういう方達にカジュアル面談も行っていますので、一度どんな場所なのかなとか、どういう人が働いているかだけでもお話しできればと思います。