山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部薬学科 助教
研究キーワード:衛生化学/環境毒性学/胎児・新生児医学/神経科学/ナノバイオサイエンス
研究に強い興味はあったのですが、最初は、この世界でやっていける自信がありませんでした。しかし、修士課程のときに、論文を国際誌に出すことができ、その後、その内容を国際学会で発表したら、反響があり、賞をいただくことができました。そのおかげで、他人に自分の研究を認めてもらえる楽しさを知り、「やっていけるかもしれない」という手応えも感じて、就職活動せずに、博士課程に進むことを決めました。
ほどなくして、山陽小野田市立山口東京理科大学に薬学部が新設されることになり、その立ち上げメンバーの一人として、声をかけていただきました。そのため、博士1年のときに、将来、山口東京理科大学に行くか行かないかを決めなければならなくなりました。大学に行くと決めた時点で、企業に就職するという選択肢は非現実的なものになります。評価してくださって、非常にありがたいお話だったのですが、妻が北関東で家業を継いでいたこともあり、山口県の大学にいくことは悩まず即決とはいきませんでした。
自分が博士課程までに培ってきたものを活かせるような職場を、妻の地元で探すことも検討しましたが、それは難しいことに気がつきました。つまり、自分が研究職を希望している以上、単身赴任は免れない状況だったのです。そのうえで考えた結果、企業で働くよりアカデミアの教員になるほうが、自由度が高く、何かトラブルが起こったときにも融通が利きやすいのではないかと考え決断しました。
私の名字(小野田)と大学がある市(小野田市)の名前が同じだから選んだのかという質問をいただくことがありますが、それはたまたまです。ただ、大学に行くかどうか悩みに悩んで心の天秤がゆらりゆらりと揺れていたとき、「小野田が小野田市に行ったら面白いよな」という考えは、確かに頭をよぎりました(笑)。
※補足:現山陽小野田市・・・2005年(平成17年)3月 小野田市と山陽町が合併
適性の観点で見ても、私は研究自体が好きですし、実験も教えるのも、物を書くのも好きなので、大学教員に向いていると思います。さらに、私が生涯を通じて貢献したいことは「子どもたちの健康増進」です。直接的に子どもの健康増進にかかわる仕事と言えば、やはり医者(小児科医)ですが、他にも、行政や研究で貢献することもできます。特に研究は、目の前の個人だけでなく、世界中の、これから先の世代にずっと役立つ、未来の科学技術の発展に貢献できることが最も大きな強みだと思います。この目標を達成する手段として、研究、それも、利潤追求が求められにくいアカデミアでの研究を選んだということになります。
大学教員になって強く思うのは、他人の反対意見を攻撃だと受け取らないことですね。学内の発表会や国内外などの学会で「自分はそうじゃないと思う」という意見を受けたとき、「だから、お前はダメなんだ」と脳内変換してしまう大学院生や若手研究者が結構いるんです。そう思ってしまうと、途端に研究がつらく、苦しいものになってしまい、研究を続けていくのは難しいのではないでしょうか。研究のプロセスとは、「そこは違って、こうじゃないか」「いや、それともこうじゃないか」という議論を積み重ね、真理にできるだけ近づいていくものだと私は考えています。「自分はこう思うけど、あなたはこういう可能性があると言う。それはなぜ?」「なるほど、自分の考えは違うかもしれない。では、その可能性を実証するにはどうすればいいだろうか」といった議論を楽しむことこそ、研究を続けていくうえで重要だと感じます。ですから、他人の言う「自分はそうじゃないと思う」を自身の否定へと脳内変換することなく、その情報をそっくりそのまま受け取り、その者と議論して、自分の研究に反映させられることが、研究者には欠かせない素質だと思います。
「自分のためにならなくて、かつ、辛いことはしなくていい」と伝えたいですね。様々な大学の博士の学生さんから相談を受けてきましたが、やりたくないことに取り組まざるをえなかったり、本当にやりたいことを我慢したりしてフラストレーションが溜まっている方が、結構な数います。そんな状況下では、余裕がなくなり、その不満を周囲の人に伝えることさえもなかなかできないようです。そんな博士学生から、進路相談を受けると、「他の人が困るから、自分が我慢してこうしているんです」と、辛い胸の内を打ち明けられることも度々あります。
極端な話をすれば、博士であろうと学生である以上、我が国では大学にお金を払っている顧客なので、お客さん的な視点で構わないと思うんです。学生の内は、わからないこと、できないことも多く、他の人のことに構っている余裕がないことも多いです。なので、もっと自分本位に物事を考えても良いと思います。「ラボの先生がこう言っているから」というのも、もちろん理解できます。そういう先生に面と向かって自分の意見を言うのは難しいということもわかるのですが、自分のことをないがしろにしてまで、後輩の指導や研究室内の雑務などをこなすのは、自分が不幸になるだけです。素直に、その苦境を先生に伝えて、研究環境を改善してもらうことが大切だと考えます。もちろん、自分の研究が順調に進み、後輩などに教える余裕も十分にあるような人だったら、将来的な指導力やマネジメント力向上のためにも、周囲に目を配ることは大切です。しかし、自分のことが全然できていないときは、他のことをする優先順位は下げて良いはずです。なので、「もっと自分本位に考えて良いよ」と言ってあげたいですね。博士課程で苦しんでいるような学生さんたちには、特にそう伝えたいです。