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鶴巻 晃子

ローマ・ラ・サピエンツァ大学 化学科 助教
研究テーマ:リチウムイオン電池 / イオン液体 / グリーンエネルギー / 電気化学

研究者としての道を選んだ経緯を教えてください

大学時代に、東京農工大学工学部生命工学科の教授でいらっしゃった大野弘幸先生に魅力を感じ、先生の研究室に入りました、そこでイオン液体についての研究をしていました。
大野先生の研究室に入ったのは、世界で初めてのことをやりたいと思ったからです。当時、先生の研究室のホームページに、世界で初めてDNA(構成要素)の液体化に成功したと書いてありました。私は、この「世界で初めて」というワードに、すごく心を奪われました。

世界で初めてと聞くと、とても難しく、とても達成できないことに感じられるかもしれませんが、「世界で初めて」は、大小さまざまなものを含めると無数に存在しています。そして、視点によって大小の感じ方は変わり、自分にとっては小さな発見が、他の分野で大きな意味を持つこともあります。
私は大学4年生のときに、ポリグルタミン酸という納豆のネバネバの主成分がイオン液体の中でどういう構造を取るのかを明らかにする研究をしていました。その研究を進めていく中で、「この情報は世界で初めてで、私1人しか知らないんだ」という経験があり、本当に研究って面白いなと感じました。
「オリジナリティのある新しい研究をやりなさい」この大野先生の教えは、今も私の大切な指針となっています。

研究者が研究を続けていく上で大切だと思うことはなんですか

ビジョンを広く持つことが、とても重要だと思います。
イタリアに来て気づいたのですが(2016年5月よりローマ・ラ・サピエンツァ大学に所属)ヨーロッパでは日本と違って、研究費を獲得するときに共同研究が多いんですよね。日本よりも産学連携が進んでいて、企業と大学が一緒に研究する機会もたくさんあります。そのときにビジョンを広く持っていないと、共同研究にたどり着くことができなかったり、共同研究の枠組みの中で自分だけ違う方向に進んでしまったりします。
このような研究費の事情から、コンセプト自体が「世界で初めての研究」をするのは、難しいこともあります。ですが、それだけに凝り固まっていると、大きなビジョンを見逃して、与えられた枠外の研究をしてしまっている可能性もあるので、大きなビジョンと、本当に価値のあること、この両方をきちんと見分けるのも大切だと思っています。

アカデミア研究者を目指す博士学生に、メッセージをお願いします

同じ世代のネットワークを持っていると大変心強く、将来役に立ちます。国際学会でも、国内学会でもいいので、とにかく学会に参加して知り合いを作り、横へ横へと交流の輪を広げていくことは早めにやっておいた方がいいと思います。また、チャンスがあるなら、若いうちに海外に留学して他国の雰囲気を知ることも将来の可能性を広げるのに役立つのではないでしょうか。日本語での情報は限られています。海外の研究者がどのような媒体から最新の情報を得ているのかを知る良い機会になるとも思います。

そして、もうひとつ。失敗はできるだけ早くすることをおすすめします。経験を積むなら、早いに越したことはありません。それが、失敗であってもです。失敗をリカバリーし、そこから立ち直るにはエネルギーが必要になります。なので、成功したことより、失敗したことの方が後々まで覚えていて、この経験が人間を作ると思います。私の記憶に残る失敗は、イタリア人の学生に対して日本人学生と同じような扱いをしてしまったことです。まず自分で調べてから質問をするという日本で得た常識をイタリア人に押し付けた結果、学生との間に壁ができてしまいました。ですが、この失敗を克服して、現在では修士論文の指導教員をできるようになりました。
成功は履歴として残るだけで「成功した。良かった」で終わりますが、失敗は次に活かせます。もちろん、失敗をリカバリーする責任を持つ必要がありますが、成功するか失敗するか、分からない経験でも、恐れずにどんどんやった方がいいと思っています。

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