無料会員登録

金森 万里子

京都大学 人と社会の未来研究院 日本学術振興会 特別研究員-PD、ストックホルム大学公衆衛生科学部 客員研究員
研究キーワード:社会疫学/公衆衛生学

研究者としての道を選んだ経緯を教えてください

研究のキャリアを始める前は、臨床獣医として北海道の酪農の現場で牛を診療する仕事をしていました。その時に、農家さんやそのご家族からメンタルヘルス、とくに自殺についての話を聞くことが非常に多かったんです。それで、地域の人の健康を守るためにできることを増やしたいという思いが芽生え、大学院に進学を決めました。今、さまざまな国で、都市よりも農村において自殺率が高いことがわかってきています。農村地域の自殺に関係している社会環境要因にどのようなものがあるか、健康格差を減らしていくにはどんな社会環境を作っていけばいいかといった研究を主にしています。
健康格差とは、様々な社会的な状況・・例えば所得や雇用状態などの社会格差によって、健康状態にも格差が生じるという現象です。一般的に、社会的に不利な立場にいる人ほど不健康になりやすいことが、世界中で報告されています。これはつまり、心や体の健康に悩んでいる人に、「それは自己責任だ」ということはできず、環境を変えていくようなアプローチが必要だということを意味しています。

研究者が研究を続けていく上で大切だと思うことはなんですか

個人レベルの要因と環境レベルの要因があると思いますが、環境レベルの話で言うと、研究者が研究を続けていくためには、それぞれのライフステージに対応できる柔軟な働き方ができる職場環境が必須だと思います。 
環境レベルの要因の例として、ジェンダーについて考えてみます。子育てのためにキャリアを諦めるか、キャリアを優先して子どもを持つことを諦めるか・・・日本では、女性研究者が子育てか仕事かの二択の選択を迫られるというのは、珍しくない話だと感じています。一方、スウェーデンでは、子育てしながら研究するのは男女ともに一般的です。男性が7,8か月育休を取ったりすることは珍しくないですし、教授でも小学生の子どもの風邪で1週間休むことは普通にあります。そういう柔軟な働き方ができるのは社会環境・職場環境が整っているからこそだと思います。

ジェンダーは女性だけの問題ではなく、男性や性的マイノリティの方など全ての人に関係する問題です。メンタルヘルスの研究分野では、有害な男らしさ、ということが最近特に注目されています。「男だから、強くたくましく、男らしくすべき」という雰囲気が、男性をうつや自殺に追い詰めます。例えば、子育てとの両立について職場の理解を得るのは、男性はより一層難しい場合もあります。子どもが生後1か月にもならないうちに、上司から仕事を振られたり、夫が妻の転勤先についていったら、「自主性がない」と言われたり。たとえ本人が家族との時間を大事にしたいと思っても、周囲からプレッシャーを感じると、日本の「空気を読む」文化の中では、板挟みになって辛いところがあると思います。だからこそ、環境・雰囲気を変えていくのが大切です。

アカデミア研究者を目指す博士学生に、メッセージをお願いします

アカデミアってものすごく狭い世界だと思います。特に博士課程のときは指導教員が絶対的な存在だと思いますし、コミュニティもラボ内のメンバーに限られがちです。ですので、その狭い人間関係の中でうまくいかないと、かなりつらい思いをすることになると思います。もちろん、うまくマッチすれば師弟関係みたいに強力なつながりになるかもしれません。しかしそういった人はおそらく非常にまれで、構造的に、悩んでいる人はかなり多いだろうと思います。

研究室内で、指導教員との関係が良くなく、さらに学生同士の仲が悪いと最悪の状況になるだろうと想像します。もし学生同士が良い関係なら、悩みを共有する場を作ったり、みんなで研究室の環境を改善するアイデアをまとめて、指導教員と議論するのもありだと思います。つながりは力ですよ。

そもそも競争がとても激しい業界なので、私も今後のことはまだわかりませんし、アカデミア研究者としてのキャリアを安易に勧めることはできません。しかし、それと心身の健康を害することとはまた別の話です。

これまで環境要因についてお話ししましたが、個人でできることとして、博士学生のみなさんにおすすめしたいことは、元気なうちにネットワークを広げておくことです。ラボによって色々研究文化は違うので、見学してみると面白いと思いますし、海外に行ってみるのもおすすめです。自分の知らなかった世界を発見でき、視野が広がるかもしれません。研究者友だちや仲間と一緒に、環境をよりよい方向へ変えていけると最高ですね。
また、一緒に仕事をするとより深く理解できるので、(もちろん無理のない範囲で)共同研究したり副業したりするのもいいですね。

CoA Researcherで
あなたの研究に合った
働き方を見つけよう

まずは無料で会員登録する
一覧ページへ戻る

今すぐCoA Researcherで
あなたの研究に合った
働き方を見つけよう

\ 簡単4ステップで完了 /

まずは無料で会員登録する