国立研究開発法人 理化学研究所 特別研究員
研究キーワード:材料科学/半導体/電子デバイス/結晶多形/電子顕微鏡
私の場合は、最初からなりたいと強く思って進んだというよりは、いろいろな出来事に引きずられるように研究者になったという感じです。
まず、高校3年生の化学の授業で、原子について学びました。そのとき、身の回りに使われる鉄などで、原子が規則正しく並んでいることや、その構造が変わると性能も変わることを知りました。こんなに小さくて目に見えないものの成り立ちで、物の性質が決まっているということに面白さを感じ、材料科学の道に興味を抱きました。
ただ、大学生のときは、絶対研究者になるぞと思って生きていたわけでは全然なく、バイトもして、友達ともよく遊んで、本当に普通の大学生でした。周りに就職する人も多かったので、自分もそんな感じかと漠然と考えていました。高校時代の気持ちを基に、研究者なのかエンジニアなのかサラリーマンなのか、材料の開発や技術に貢献する人材になれたらと思っていました。
ところが、大学4年生のときに研究室に入り、半導体の実験をしていると、原子の並び(結晶構造)が自分の材料でも変わって、さまざまな面白い現象が起こることをたまたま発見したんです。以前から勉強した内容と近いことが、自分の今持っている半導体でも起こったのだと。それが、研究にのめり込んでいくきっかけになりました。
当時はまだ装置を扱うのが未熟なこともあり、失敗もたくさんしていました。多くの作業をこなすのに時間をとられ、将来について考えるより目の前のことに精一杯だったのですが、手探りでやっていくうちに応用の可能性も見えてきて、もう少し研究してみたいという気持ちが湧いてきました。先生や先輩たちからも「これ絶対チャンスあるよ」と後押ししてもらえました。それから、1、2年かけて研究を続けていくなかで、「よし、まずはドクターに進んで研究者として実績を作ろう」と決めたような流れだったと思います。
その後、半導体だけでなく他にも金属だとか、絶縁体、磁性体、高分子などさまざまな材料にも携わりたくなりました。
自分の見える世界を広げていきたいという思いもあり、大学を出た後、現在は国立研究所で働いております。
「自分がその世界にのめり込めるか」です。これは研究に限った話ではないと思うのですが、人は夢中になっているときに一番パフォーマンスが上がっていくし、成果が出せると感じています。
ですから、自分が興味を持ってのめり込めることが、目の前の研究にあるかどうかが非常に重要だと思います。
また、研究所に関しては、淡々と研究に打ち込めることも大切だと思います。
研究所と大学では環境が異なります。
大学にいるときは、研究室に学生がたくさんいて、賑やかな雰囲気です。少し騒がしいときもありますが、トラブルが起こっても気さくに相談できたり、こんなことがあったとその場で話し合えたりする良さもあると思います。
一方、研究所では施設が更に充実していて、敷地が広いこともあり、パーソナルスペースにかなりゆとりがあって快適です。ただ、周りの人の出勤状況によっては、なかなか人としゃべらないようなときもあります。もちろん、一人で仕事をするわけではなく、ミーティングや同僚との作業もありますが、研究所ではより様々なプロジェクトや所内の業務に割り当てられやすいと感じており、ある程度淡々と仕事に打ち込むような生活に慣れたほうが良いように思います。
研究者になるか、就職するかを迷うようなことがあれば、「どんな人材になりたいのか、なぜそういう人物像を目指すのか」を突き詰めて考えてみてはどうでしょうか。
例えば、大学の教員に強い憧れを持っている人であれば、元々そのような夢を抱いていたり、周りにそういう人がいて影響を受けたりして、こういう教育者になりたいというビジョンがあり、そこに興味だとか情熱があると思うんですよね。そんな自分ならではのビジョンが、これから背中を押してくれるのではないでしょうか。
私の場合は、たまたまのめり込めることが見つかり、それに導かれるように研究者の道へと進みましたが、それがまだ見つかっていなかったとしても、「その先にどういうビジョンがあるのか」を考え続けていけば、目の前のことにのめり込めるかどうかに繋がっていくと信じています。