異分野ジャーナル探訪
Interdisciplinary Journal Explorations
異分野交流。簡単に口に出せるが、現代の研究領域は自然科学の幹から分岐を重ね、となりの領域で今まさに何が起こっているのか、その本質を知るには時間がかかる。
点と点をつなぐ営みが科学の発展に貢献してきたのは間違いない。
一方、無数の点を瞬時に見つけられるこの時代に、点の価値を見極める術が追いついていないように思う。
そこで我々は、分野ごとに重要視されている学術ジャーナルにスポットライトを当てることで、異分野の研究者が新しい知見を学ぶ際に信頼できる足がかりを提案できないかと考えた。
自分の領域では「よく読むジャーナル」。
畑が違えば「知らないジャーナル」。
本企画では、そんな「研究業界全体から注目を集めているわけではないけれど、自分の領域の研究者はこれを読む」というジャーナルを、CoA Nexueが実際にお会いした研究者100名に聞いた 。

今回は、自然科学の基盤をなす3分野、物理・化学・生物のジャーナルをご紹介。
物理学
physics
物理分野からは11名の回答が集まった。
その中でも最も名の挙がったジャーナルが、応用物理学を扱う「Journal of Applied Physics」だ。
Journal of Applied Physics
物理分野の63%が回答。
Journal of Applied Physics(JAP)は、米国物理学協会が刊行する国際的な応用物理学誌。
薄膜やナノ材料、磁性、光学デバイス、センサーなど、応用物理の広範な領域を対象とし、基礎的理解と実用展開をつなぐ研究を掲載している。
1931年の創刊以来、応用物理学の発展を支え、国際的に広く参照されている主要誌である。
化学
chemical
化学分野からは20名の回答が集まり、「Journal of the American Chemical Society」が最多票を獲得。また、領域内で特に票が集中した機能性材料、ナノ材料、有機化学のジャーナルもピックアップ。
Journal of the American Chemical Society
化学分野の35%が回答。
Journal of the American Chemical Society(JACS) は、アメリカ化学会が刊行する国際的な総合化学誌。
1879年に創刊され、有機・無機・物理・材料・生命化学など幅広い領域を対象とし、化学の基盤を切り拓く革新的な研究成果を掲載している。
Advanced Materials
機能性材料領域の100%が回答。
Advanced Materials は、Wiley-VCH が刊行する国際的な材料科学誌。
ナノ材料、エレクトロニクス、高分子、エネルギー、バイオマテリアルなど多岐にわたる分野を対象とし、次世代材料の設計・機能・応用に関する最先端の研究成果を掲載している。
特に機能性材料に強みを持ち、基礎から応用をつなぐ研究や社会実装を見据えた成果が多く、分野横断的な動向を把握するために研究者が広く参照する主要誌となっている。1988年創刊。
ACS Nano
ナノ材料領域の100%が回答。
ACS Nano は、アメリカ化学会が刊行する国際的なナノサイエンス・ナノテクノロジー誌であり、2007年に創刊された。
ナノ材料、分子エレクトロニクス、エネルギー変換、触媒、バイオ・医療応用など多岐にわたる分野を対象とし、ナノスケールでの構造・機能・応用に関する最先端の研究成果を掲載。
特に機能性材料に強みを持ち、基礎から応用をつなぐ研究や社会実装を見据えた成果が多く、分野横断的な動向を把握するために研究者に広く参照されている。
Organic Process Research & Development
有機化学領域の100%が回答。
Organic Process Research & Development(OPR&D)は、アメリカ化学会が刊行する有機合成化学とプロセス化学に特化した国際誌。
医薬品やファインケミカルの開発におけるスケールアップ、反応最適化、持続可能なプロセス設計などを対象とし、研究成果を実産業に生かすプロセス化学の知見を掲載している。
学術的基盤と産業応用を結びつけ、製薬・化学産業における実践的研究の共有と発展を担う主要誌。1997年創刊。
生物
Biology
生物分野では生命科学14名、医学11名の計35名から回答が集まった。NatureやScienceと並んで3大トップジャーナルと評される「Cell」のほか、分子生物学、生化学、がん疾患領域の注目ジャーナルを紹介。
Cell
生命科学領域の57%が回答。
Cell は、Cell Press が刊行する国際的な生命科学誌。
分子生物学、細胞生物学、神経科学、免疫学、がん研究など多岐にわたる分野を対象とし、生命科学の根幹に迫る革新的な研究成果を掲載している。
1974年の創刊以来、生命科学分野を牽引する旗艦誌である。
The EMBO Journal
分子生物領域の100%が回答。
The EMBO Journal は、欧州分子生物学機構が刊行する国際的な生命科学誌。
分子生物学、細胞生物学、発生学、ゲノミクス、システム生物学など幅広い領域を対象とし、生命現象の分子機構を解明する研究を掲載している。
基礎研究における新規性とインパクトを重視し、分子生命科学の最先端を映す鏡として、多くの研究者が注目を寄せる。1982年創刊。
Journal of Biological Chemistry
生化学領域の100%が回答。
Journal of Biological Chemistryは、米国生化学・分子生物学会が刊行する国際的な生化学誌である。
タンパク質、酵素、代謝、シグナル伝達、遺伝子発現、細胞構造など幅広い領域を対象として、生命現象を分子レベルで理解する研究を掲載。
1905年の創刊以来、基礎的で堅実な成果を重視し、分子生命科学を支える礎として長く信頼を集めてきた。
Cancer Research
がん疾患領域の67%が回答。
Cancer Research は、国際的な腫瘍学誌として米国癌学会が1941年に創刊。
がんの発生・進展メカニズム、シグナル伝達、腫瘍免疫、分子標的、バイオマーカー、治療法開発など幅広い領域を対象とし、基礎から臨床応用に至るまでのがん研究の最前線を掲載している。
がん研究における重要な知見を数多く発信し、腫瘍学分野を牽引する中心的なジャーナルとして世界中の研究者に読まれている。

朝の電車で、昼間のデスクで、そして深夜の静けさの中で。
あなたが当たり前に開くそのジャーナルは、実は“隠された”知の宝庫。
他分野の研究者が日々更新を待ち望むそのページには、どんな発見が並んでいるのだろうか。
そんな小さなわくわくが、異分野ジャーナルを覗くきっかけになれば嬉しく思う。
今回は、様々な分野で活躍する研究者100名に、それぞれの分野で読まれている「価値あるジャーナル」を教えていただきました。
今後このアンケートは、研究者であればどなたでもご参加いただけます。
次は、どの分野のどんなジャーナルと出会えるでしょうか。
今回ご参加いただけなかった皆さまからの投票も、心よりお待ちしております。