2024年3月14日、アメリカのイーロン=マスクが率いるスペースX社が、将来の人類の火星移住を見据えた大型宇宙船「スターシップ」の3度目の打ち上げを行い、成功しました。以前の2回は打ち上げ直後に爆発したことから、今回の成功は著しい前進といえます。日本でも、JAXAが今年2月に「H3」ロケットの打ち上げに成功しています。さらに今年3月には東京のスタートアップ企業・スペースワン社が「カイロス」ロケットの打ち上げを実施し、爆発という結果に終わってしまったものの、宇宙開発競争は再び注目を集め始めています。この記事では、イーロン=マスクの抱く火星移住計画という野望に紐づけて、火星探査の意義と、現時点での課題について紹介します
なぜ”火星”なのか
イーロン・マスクの人類火星移住計画に代表されるように、なぜ”火星”はここまで私たちの注目を集めているのでしょうか。それは、火星という惑星の性質にあります。
火星は、太陽系の第四惑星であり、太陽からおよそ2億3000万km離れた位置にあります。太陽系第三惑星である地球とは隣同士ということになります。火星は、地球と多くの点で類似しているため、「地球の双子」とも呼ばれます。たとえば、自転周期がほぼ同じ(24時間程度)であること、地球の北極と南極に相当するもの(氷帽という)が存在すること、そして軸の傾きに起因する四季があること、などが挙げられます。
一方で、多くの相違点もあり、たとえば地球のような大気がなく気温の変化が激しいこと、重力が地球の0.38倍であること、水が存在しないことなどが挙げられます。すなわち火星は地球と極端に似ているわけでもなく、極端に違うわけでもない、「ちょうどよい」惑星といえるのです。
近年では、古代に火星に水が存在していたことも示されており(1)、こうした特徴から火星は宇宙における生命の起源を研究するうえで非常に重要な対象となっています。さらに距離的な近さと他の惑星よりも気候が比較的マイルドであることから、人類の将来的な居住候補地となっているのです。
火星探査のこれまで
最近火星探査の話題が熱を帯びていますが、ここで各国の動向について見ていきましょう。火星探査の起源は今から50年以上前、1962年のソ連によるものまで遡ります。それからソ連(のちロシア連邦)とアメリカ合衆国の2国による試みが数多く実施されました。2020年にはアラブ首長国連邦(UAE)、中国、そしてアメリカ(USA)が相次いで火星探査を成功させました(2)。
UAEの火星探査機「HOPE(ホープ)」は火星の周囲を周回し、火星の大気のデータを収集するとともに気象現象を観測しました。中国の「天問1号」は、オービター、ランダー、ローバーという手法(3)を使った複雑なミッションを実施しました。このミッションは、火星周回から着陸、巡視までを1回で成功させた世界初の事例となりました。
アメリカNASAの火星探査ローバーPerseverance(パーサヴィアランス)は、火星における過去の生命活動の痕跡を探すことを目的の一つとしており、すでに岩石サンプルの採取に成功しました。 これらのミッションは火星探査に新たな貢献と進歩をもたらしたといえるでしょう。
宇宙開発に参画する企業
冷戦時代の米ソのように、従来の宇宙開発というのは国家の威信をかけた大規模プロジェクトであり、NASAのような国家機関が主導するのが通例でした。しかしながら、近年はイーロン・マスク率いるスペースX社のように、民間のスタートアップ企業が宇宙開発に参画することも珍しくなくなってきました。
宇宙開発における民間企業の役割は、多大な利益をもたらす可能性を秘めています。 民間企業が宇宙に足を踏み入れることで、投資が増加し、革新的な技術が生まれ、経済的に実現可能な宇宙探査が可能になります。たとえば、従来ロケットを1回打ち上げるだけでも約500億円という高額な費用が必要であったものの、スペースX社による技術革新はこの状況を劇的に改善し、いまでは約50億円前後まで削減されています(4)。
民間企業の参加は、宇宙環境の保護にも貢献し、持続可能な宇宙探査を促進します。さらに、この参加は宇宙探査を通じた科学的及び技術的な進歩を加速させることで、人類全体の利益に寄与すると期待されます(5・6)。 将来的には、宇宙開発は国家による寡占事業ではなく、民間と協力する、もしくは民間が主導することがメインストリームになっていくことでしょう。
火星移住計画は実現するのか
イーロン=マスクが掲げるところによれば、彼は2030年に火星に基地を建設することを目標にしています。すさまじいスピードで宇宙船の打ち上げと開発を進めているスペースX社を見ていると、火星移住計画という突拍子もない話が単なる夢物語ではないと感じさせられます。
しかしながら、これを実現するためには現時点で数多くの課題が山積しています。 火星は地球からの距離が、最も遠いときで4億km、最も近くても5600万kmもあり、通信の遅延や打ち上げのタイミングの難しさという課題があります。さらに、他の惑星と比べて気候が穏やかとは言っても、地球の生命体が生きていくには非常に厳しい環境です。火星探査に用いられる機械でさえ、その環境に耐えるには特殊な技術が必要です。加えて、火星探査の回数はまだまだ十分とはいえず、火星の環境に関する情報が不足しています(7)。
以上のことから、まず火星に住むには火星のことをもっと知ることが必要不可欠です。しかしながら、国家と民間が協力してこれまでにないスピードで宇宙開発が進んでいる昨今では、こうした経験と知識不足も次第に解消されていくことでしょう。
おわりに
本記事ではますます熱を帯びている火星探査について、そもそもなぜ人類は火星を選ぶのか、火星探査を取り巻く環境の変化、そして将来的な人類の野望と、現時点での達成度との間にどのような乖離があるのかを見てきました。まだまだ実現は先かもしれませんが、もしかしたら私たちの世代が、火星移住を経験する最初の世代になるかもしれません。
参考文献
- Mars: new insights and unresolved questions
- Mars Exploration in 2020
- Mars Exploration Rover mission
- The Recent Boom in Private Space Development and the Necessity of an International Framework Embracing Private Property Rights to Encourage Investment
- Public–private partnerships in fostering outer space innovations
- Legal Framework for Space Exploration. Benefits and Threats for the Earth
- Analysis on Mars Exploration for the Prospect of Future Mars Migration Plan and Society Development
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