CoA Studyが開催したウェビナー「宇宙テック最前線」では、宇宙飛行士/Axiom Spaceの若田光一氏 、ElevationSpace CTO の藤田和央氏をお迎えし、宇宙開発の最前線とそこで求められる人材について深堀りしました。当日は参加者の皆さまから多くのご質問をいただき、時間内にお答えしきれなかったものも少なくありません。

本記事では、イベント時に未回答のご質問に対してElevationSpace藤田氏からいただいたご回答をお届けします。大気圏再突入の技術、民間主導の宇宙ビジネスの行方、そして異業種・研究者からのキャリアチェンジまで、9つの質問をテーマ別に整理しました。

Ⅰ. 技術と事業戦略――
 「宇宙から帰ってくる」をどう実現するか

Q. 軌道から外れて、大気圏突入の為に、制御用のシステムは必要ですか?開発中でしょうか?

A. 弊社初号機の AOBA では、大気圏再突入の際に目標地点に狙いを定めて大気圏再突入させるので制御用のシステムはありませんが、後継機として開発している ELS-RS では、目標地点へより正確に誘導制御するため、誘導制御システムを開発しています。

※1 AOBA(あおば):ElevationSpaceが開発する再突入衛星で、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機。宇宙空間で実験・実証を行ったあと、その成果物を地球へ持ち帰ることを目指す。独Isar Aerospaceのロケット「Spectrum」により、2026年後半以降の打ち上げを予定している。
ELS-R公式ページ:https://elevation-space.com/els-r

※2 ELS-RS:ElevationSpaceが開発を進める、宇宙ステーションなどの有人拠点から高頻度で物資を回収するサービス。小型の再突入カプセルを輸送船で拠点へ運び、拠点で実験・製造したサンプルを好きなタイミングで搭載して、地球の狙った地点へ帰還させる。
ELS-RS公式ページ:https://elevation-space.com/els-rs

Q. ダウンマスの費用を下げることや、回収頻度を保つにはELSでロケットを持ってる必要があると思われるが、ロケット業界への参入は考えていますか?

A. 非常に重要なポイントですね。打ち上げシステムを有することは、宇宙開発における最大の競争力となりますので、将来的には打上げシステムを有することで競争力を確保したいと考えていますが、まずは同様に強い競争力となりえる帰還・回収技術において優位性を確保する、というのが弊社の方針です。


Q. 軌道上に増える一方の機能していない人工物、もしくは機能していても増える一方で混雑して来るLEO周辺が、どの程度深刻な問題としてこれからの宇宙産業に立ち塞がるとお考えでしょう? 宇宙のお掃除屋さんを名乗って出るスタートアップがあり、気になっています。

A. 宇宙ゴミの問題は深刻であり、重要な課題であるものの、まだ国際的なルールも完成しておらず、その費用負担をだれがおこなうかということが大きな枷となって、解決に向けた動きが遅いのが現状です。

しかし、このままいけば宇宙へ打ち上げた宇宙機のほとんどが短期間でデブリによって損傷を受け、機能しないという未来が来ることになるので、費用負担も含めた国際ルールを早急に作り、まず発生させないこと(発生させた場合はペナルティを受けること)、既存のものを回収すること、という段階的に解決するように進めるべきであると思っています。


Ⅱ. 日本の宇宙開発はどう進むべきか

Q. 宇宙開発の初期段階では、人間が中心となって活動を進めるのでしょうか?それとも、生命維持にかかる物資やコストを抑えるために、ロボットや機械をメインに据えるのでしょうか?
それぞれの特徴を考えると、人間(有人)には「高い適応力と柔軟性」「複雑で繊細な作業」という強みがあり、機械(無人)には「安全性と過酷な環境への耐性」「人的コストとリスクの低減」というメリットがあります。
これらを踏まえ、近年のロボット工学の劇的な進化を考慮すると、初期フェーズではロボットをメインにして環境を開拓し、インフラが整った安全な段階で人間が引き継ぐという形が、最も現実的かつ合理的なのではないかと考えています。

A. いろいろな考え方があると思いますが、やはり環境の過酷さを考慮すれば、ロボットが先行するのが安全で、コストもかからないでしょう。

ただし、最終的には人が宇宙へ出てゆくことになると思いますので、開発の初期から人が乗った時の安全を考慮しながら進めることが肝要と考えます。


Q. これからますます民営化されながら,企業,研究機関,アカデミアでの効果的な役割分担が必要かと思いますが,アカデミアに期待すること(教育,研究,社会貢献)は何でしょうか?

A. 企業ではどうしても利益を出さなければならないので、開発に集中し研究の部分がおろそかになりがちです。

細やかな研究や、潜在的なリスクに対する知見、発生する課題を解決するタスクを、アカデミアが担っていただけると大変ありがたく、弊社ではその取り組みを進めており、既に多くの国内のアカデミアに支えられています。


Q. 今は宇宙戦略基金で活況だと思いますが、基金が終わってから日本の宇宙開発の勢いが落ちないか心配があります。実際、そのような空気感はありますか?
また、打開に必要なことがもしあれば、コメントをもらえますと幸いです。

A. はい、基金がなくなった後、自力で成長を維持できるように準備を進めることが重要です。

基金を最大限に活用して事業化の準備を完了できるような戦略が重要で、弊社も常にそのことを意識しながら、将来の市場動向を見据え、基金を活用しながら準備を進めています。


Ⅲ. 宇宙へのキャリア――
  研究者・異業種からの挑戦

Q. 子供のころに宇宙飛行士になりたいとか、人工衛星の開発したいとか思うようになったきっかけはあるのでしょうか?

A. はい、子供のころの漠然とした宇宙へのあこがれ、フロンティアへの挑戦心が、現在宇宙に取り組む自分を形成したと考えています。

私の場合、子供のころは、天体望遠鏡で星空をみたり、宇宙に関わるアニメをみたり、SF映画を見たり、そのようなところから始まっていて、特別なことはなかったと思いますが、高校をすぎるあたりから、より専門的に意識するようになりました。


Q. 再来年度を目途に大学院の博士課程で次世代宇宙向け半導体/ハードウェア技術の研究をして、宇宙開発ができる会社/研究機関等へキャリアチェンジしようとしています。
研究テーマ設定の際、今のRad-hardなモノを考えるだけでなく、もっと先で使われる技術の種を考える必要があると考えていますが、ご意見をいただけると嬉しいです。

A. 集積化が大きなハードルになると考えています。ご存じの通り、宇宙放射線の影響で、半導体の配線間の距離には地上の場合(トンネル効果や熱による制約)よりもさらに大きな制限があり、集積化・小型化の障壁となっています。

放射線によるシングルイベント効果に対するために、また長期的にはトータルドーズ効果に対応するために、半導体には何重もの冗長化が必要となります。それも小型化の障害となります。

こういった課題を解決することが、宇宙向け半導体の将来の課題となるでしょう。3次元集積化は一つのキーワードであり、その際の放熱の課題を解決することが重要です。


Q. 自動車業界で培った経験が宇宙開発で活かされるというお話がありましたが、私は現在、二輪車のプロダクトデザインに携わっています。二輪車のデザインで培った人間中心設計や操作性、造形などの経験も、宇宙開発で活かせる可能性はあるのでしょうか?
また今後、有人宇宙活動が広がる中で、宇宙船や宇宙ステーションの「人が触れて使うもの」を設計するデザイナーが専門的に関わる可能性について、どのようにお考えでしょうか?

A. 自動車の開発ノウハウは、プロダクトデザインも含めて、大いに宇宙開発に貢献するでしょう。

現在は宇宙開発では機能・信頼性・安全性が第一に追及されますが、人が扱うデバイスは、マンマシンインタフェースが適切でないと、そのことがヒューマンエラーの原因となるだけではなく、ストレスを生むことで間接的なエラーの原因となります。

将来の有人宇宙開発では重要な要素であり、弊社でも既に自動車業界のノウハウの取り込みを進めています。


おわりに

今回のQ&Aからは、「帰還・回収」という領域に絞って競争力を磨くElevationSpaceの姿勢と、民間・アカデミア・政策がそれぞれの役割を果たすことへの期待が見えてきました。デブリ問題や基金後の自立といった課題にも、率直な見解をいただきました。

特に印象的なのは、半導体研究や自動車・二輪車のデザインなど、宇宙「以外」で培った専門性が、これからの宇宙開発に求められているという点です。宇宙産業への挑戦を考えている研究者・エンジニアの皆さまにとって、一つのヒントになれば幸いです。

CoA Studyでは今後も、ディープテックの最前線で活躍する方々をお迎えしたイベントを開催していきます。

なお、本イベントのアーカイブ動画も公開しております。
まだご覧になっていない方はもちろん、内容を改めて振り返りたい方も、
ぜひ以下のURLよりご視聴ください。
https://coanexus.com/coastudy/events/space-tech-003/