注目を集めるフィジカルAI。その能力を実世界で引き出すうえで、ハードウェアにはどのようなボトルネックがあるのでしょうか。

AIがどれほど高度な判断を下しても、それを実世界での力・速度・位置に変換するのは関節やアクチュエータです。応答の遅れや摩擦・バックラッシュによる動きのずれは、姿勢の立て直しや力加減の精度に影響します。

MITのチーターロボット開発チームは、低い出力インピーダンスと高帯域の力制御が、衝撃緩和や動的な物理接触に直結すると説明しており(1)、2026年に公開されたプレプリントでも、学習時のシミュレーターが仮定する理想的なアクチュエータ挙動と、実際のモーターが示す非線形・ハードウェア依存の挙動との差が、sim-to-real転移を難しくする要因として指摘されています(2)。

AIを「頭脳」、関節・アクチュエータを「筋肉・腱」に例えるなら、両者の性能と連携がロボット全体の能力を左右します。

本稿では、公開されている研究論文や学会誌の解説、企業の技術記事、ロボット開発者へのインタビューをもとに、ロボットの関節・アクチュエータ設計で繰り返し指摘される技術的なポイントを整理しました。

QDD(準ダイレクトドライブ)は何を狙った方式か

四足歩行ロボットやヒューマノイドの関節で採用例が見られるQDD(Quasi-Direct Drive)は、高トルク密度のモーターと低減速比の減速機を組み合わせ、出力側から見た反射慣性や、減速機内部の摩擦の影響を、高減速比の方式より抑えやすい構成です。MITのチーターロボット開発チームは、高トルク密度モーターと低減速比を生かし、関節位置やモーター電流など、アクチュエータ内部の情報を用いて接触力を制御する設計思想を「プロプリオセプティブ・アクチュエーション」と呼んでいます。QDDは、この思想を実現する代表的なアクチュエータ構成です(1)。

ただし、QDDも減速機や軸受を含む機械システムである以上、摩擦やバックラッシュ、構造のたわみなどの影響を完全には排除できません。また、低い減速比で大きな出力トルクを得るには、モーター側で大きなトルクを発生させる必要があり、モーターの大型化や電流、発熱、冷却とのトレードオフが生じます。同じ出力トルクでも、モーター定数や巻線、電圧、冷却条件によって必要な電流や発熱の程度は変わります。

歩行ロボットの関節には、接地衝撃を受け流す低い出力インピーダンスと、支持期に体重を支える高いトルク能力、構造剛性、熱耐性が同時に求められます。これらを重量や寸法の制約の中で両立させることが、QDD設計の難しさです。MIT論文は、低出力インピーダンスと衝撃緩和、高帯域の力制御を重視した設計として、この両立の考え方を示しています(1)。

「トルク密度」という指標の難しさ

ヒューマノイド用アクチュエータでは、高いトルクを維持しながら関節モジュールを軽量化する「トルク密度」が重要な設計指標になります。ただし、この数値の定義や測定条件は必ずしも統一されていません。ミシガン大学の研究チームは、モーターのギャップ半径を最大化するという従来の設計指針だけでは最適なモーター選定にならないとして、トルク定数・モーター定数・慣性など複数の指標をあわせて評価する必要があると提案しています(3)。公開されている製品や研究例を見ても、ピークトルク密度はモーター単体か、減速機や筐体を含むアクチュエータ全体かによって数値の意味が変わり、単一の基準値として一般化するのは難しい段階だといえます。

肩・肘・手首、関節ごとに異なる難しさ

人間の肩に近い3自由度(屈曲・伸展、外転・内転、内旋・外旋)の運動を実現する機構として、「サイバネティック・ショルダー」では複数の駆動軸を組み合わせた構成が提案されています(4)。アクチュエータメーカーの技術解説では、肘に配置するアクチュエータの重量が腕全体の慣性を増やし、手首の動作や腕全体の性能に波及すると指摘されています(5)。ヒューマノイド用の手首機構を扱った研究では、3自由度の並列機構を前腕内に収めるコンパクトな設計が試みられています(6)。

回転かリニアか

関節を動かす方式には、モーターと減速機を関節軸に直接組み込む回転アクチュエータと、モーターの回転をねじ機構で直進運動に変換し、リンクを介して関節を動かすリニアアクチュエータがあります。回転アクチュエータは関節軸へ直接統合しやすく、比較的単純な機構を構成しやすい一方、関節付近に質量が集中しやすいという制約があります。リニアアクチュエータは、機構によってはモーターを関節軸から離れた位置に配置できますが、リンク機構の幾何条件によって可動域やトルク伝達特性が変化します。

ロボット開発エンジニアのScott Walter氏は、ポッドキャストの中でシミュレーションの精度が低ければ強化学習はうまく機能しないとの趣旨を述べ、リンク機構のモデル化の難しさが機構選定そのものに影響していると説明しています。同氏によれば、リンク機構が特異姿勢に近づくと、トルク伝達効率が低下したり、実用上の可動域が制限されたりするといいます。あわせて、精密遊星ローラーねじを量産できる企業が限られており、供給面がボトルネックになりうる点も指摘しました(7)。

Walter氏は2025年のこのポッドキャストで、公開情報をもとに、Figure AI、Boston Dynamics、Agility Roboticsなどを回転式中心、ApptronikとXPeng Roboticsをリニア式中心、TeslaとNeura Roboticsを両者のハイブリッド構成と整理しています。ただし、これは同氏による観測ベースの整理であり、各社の詳細設計は非公開部分も多く、機体世代や関節によって構成が変わる可能性があります(7)。どちらの方式を選ぶかは、関節配置・重量分布・可動域・量産性に影響します。

脚式ロボットでは、アクチュエータの配置と質量が脚の慣性や接地時の衝撃に影響します(1)。二足歩行では、これに加えて機体全体の重心位置や姿勢安定性も考慮する必要があり、脚のどこに、どれだけの質量を配置するかという設計判断が欠かせません。

量産の壁

ロボット用減速機や関節モジュールは、寸法・出力・剛性・センサー構成・配線・冷却方法などを機体設計に合わせて最適化する必要があります。量産と設計連携の難しさは、以前から指摘されています。ナブテスコの安藤氏は2015年の日本ロボット学会誌で、ロボットメーカーごとに設計の特徴が異なるため、詳細なすり合わせなしに最適な減速機形状を実現することはできないと説明しています。また、需要変動の拡大に伴って短納期要求も強まっていると述べています(8)。試作段階で高い性能を示すだけでなく、品質を維持した量産、コスト、調達期間、メーカーとの設計連携まで含めて競争力が問われる——部品単体の技術力と、事業としての競争力の間にあるギャップは、こうした構造から生まれているようです。

アクチュエータは「部品」ではなく「システム」で考える

アクチュエータの実際の挙動は、モーターと減速機だけでなく、センサー、ドライバー、制御帯域、摩擦、熱状態などの組み合わせで決まります。実機とシミュレーションの差を小さくするためにも、こうした要素をアクチュエータシステム全体として捉える必要があります。モーター×減速機×エンコーダー×ドライバをどう組み合わせるか——アクチュエータは「部品」ではなく「システム」として考える必要がありそうです。


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本稿で挙げたような技術的課題を、現場の研究開発を率いる登壇者とともに掘り下げる場です。

出典

  1. Wensing, P. M., Wang, A., Seok, S., Otten, D., Lang, J., & Kim, S. (2017). Proprioceptive Actuator Design in the MIT Cheetah: Impact Mitigation and High-Bandwidth Physical Interaction for Dynamic Legged Robots. IEEE Transactions on Robotics, 33(3), 509-522. https://doi.org/10.1109/TRO.2016.2640183
  2. Yamamori, S., Ishihara, K., Minamikawa, K., Ohomori, K., Yazaki, T., Sugimoto, N., & Morimoto, J. (2026). Actuator Reality Shaping for Zero-Shot Sim-to-Real Robot Learning. arXiv:2607.02205.
  3. Urs, K., Enninful Adu, C., Rouse, E. J., & Moore, T. Y. (2022). Alternative metrics to select motors for Quasi-Direct Drive actuators. arXiv:2202.12365. https://arxiv.org/abs/2202.12365
  4. Nakamura, Y., Okada, M., & Hoshino, S. (2000). Development of the torso robot — Design of the new shoulder mechanism “cybernetic shoulder”. In Experimental Robotics VI, Lecture Notes in Control and Information Sciences, vol. 250. Springer. https://link.springer.com/chapter/10.1007/BFb0119428
  5. ヒューマノイドの関節構築における課題 – パート2:腕と首(著者:Casper van Eersel)- IMSystems. https://imsystems.nl/ja/challenges-in-building-humanoid-joints-part-2-arm-neck/
  6. A parallel kinematic wrist for the R1 humanoid robot. IEEE Conference Publication. https://ieeexplore.ieee.org/document/8014184
  7. Podcast Recap: Inside the Rotary-vs-Linear Actuator Showdown Shaping Humanoid Robots(ロボット開発エンジニア Scott Walter 氏へのインタビューをもとにした記事)- Humanoids Daily. https://www.humanoidsdaily.com/news/podcast-recap-inside-the-rotary-vs-linear-actuator-showdown-shaping-humanoid-robots
  8. 安藤 清(2015)「ロボット用減速機の現状と今後の展望」日本ロボット学会誌, 33巻5号, 329-333頁(ロボ學にて公開). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/33/5/33_33_329/_article/-char/ja/